謝礼交際

入り口の近くはおもちゃ売り場で、その前に大きな通路が横に伸びている。お父さんは良く知っているのであろう、右に曲がって歩き出した。大きなカートは既に手で押している。
この辺で一番大きなショッピングセンターである。

100メートル程歩くと、カラフルできれいなフルーツの山が見えてきた。大きな樽の様な什器がたくさん並び、その上に様々な果実が山の様に積んである。やっと食品売り場に近づいてきたのだ。

お父さんは私に何を食べたいか、と聞いた。私は「ここの名物料理は何ですか?」と逆に質問した。お父さんはしばらく考えていたが、「うどんとこんにゃくかな。しかしこんにゃくはそのままではうまくないからな、落ち着くところ鍋だろう。」と言った。

実の父親との買い物に来ているみたいだ。

「観光客に人気なのは焼きまんじゅうとおっきりこみだよ。食べてみるかい。」と言うので、観光客が食べられるのなら大丈夫だろうと思って、「それにして下さい」と言った。

私は一人で農家宿に屋やって来た。群馬県にある。謝礼交際のサイトでお父さんから申し込みがあったのだ。
普通の謝礼交際のデートは最近飽き飽きしていた。大体誰もが同じようなコースになってしまう。

ここの従業員兼オーナーはおとうさん一人である。掃除、布団の上げ下げ、食事の用意、食事の配膳、後片付け、皿洗い等全て一人でやっている。だからある面解り易い。
要望があればフロントへ、ではなく、お父さんに言えば一発で叶えてくれる。

宿賃は結構高い。なぜか、それは料金ではなく「謝礼」だからと、お父さんは言う。
お父さんとの交際も含んだ料金なのかもしれない。

今日の宿泊客は2組、一組は私で一人客である。もう一組はファミリーで、若い夫婦とやっと歩けるようになった子供と赤ちゃんである。赤ちゃんのミルクのお湯をお父さんに頼んでいた。
パトロン 欲しい

私はお父さんに頼んで買い出しに連れて行ってもらったのだ。この時間はお父さんとの交際である。
この人は全ての苦悩を分かっている。人として生きる苦しみの全てが分かっている。人のはかなさ、バカバカしさも良く知っている。

だからこのお父さんには、何を頼んでも嫌とは言わないと何となく分かる。

だから通路を歩きながら聞いてみた。「私何かして謝礼もらえる?」

「わいの心のこもった料理、丁寧に整えた夜具、静かな自然、最高の睡眠、体と心がほぐれる温泉。全て最高だろう。けどさ、これがうれしいなら、おいもうれしくさせてくれ」。
お父さんはしばらく考ていた。「かあちゃん3年前死んじまってから、女の体には触れてねえ」。

と言う事で、謝礼交際の約束通り、お父さんと私は食事の友をして、そしてそのまま布団の中でも友をした。

お父さんは布団の中で泣き出した。魂が泣いていた。しかし小さな声でかあちゃんに謝っていたのを私は知っている。
ホ別2
ホ別苺